日記とか趣味とかサイトとかの話。
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仮印刷が済み、最終調整もしたので、これで完成かな
まあ、最初の一段落を丸々カットされるという驚きの事態が発生しましたが\(^o^)/
ということで、そのカットされた部分をここに貼っておきます
別にこんな文無くても問題ないので、これを読んで「あれのリメイクか……」とか「どんな話なんだろう」と想像を膨らませるもよし、買って読む前にこれを読んでくっつけるも良し
没って載る見込みも載せる気も無いので、公開しても全く問題無いよね!
……これを基に何か書くことは無いよなあ、多分……まああっても、それ用にまた新しく書き起こせばいいよな、うん
ちなみに、私の原稿は訂正が一番少なかったというか、推敲漏れみたいなもんだった
他の方達は引用が反映されていなかったり、文中の顔文字がうまくいかなかったり……
まあ、最初の一段落を丸々カットされるという驚きの事態が発生しましたが\(^o^)/
ということで、そのカットされた部分をここに貼っておきます
別にこんな文無くても問題ないので、これを読んで「あれのリメイクか……」とか「どんな話なんだろう」と想像を膨らませるもよし、買って読む前にこれを読んでくっつけるも良し
没って載る見込みも載せる気も無いので、公開しても全く問題無いよね!
……これを基に何か書くことは無いよなあ、多分……まああっても、それ用にまた新しく書き起こせばいいよな、うん
ちなみに、私の原稿は訂正が一番少なかったというか、推敲漏れみたいなもんだった
他の方達は引用が反映されていなかったり、文中の顔文字がうまくいかなかったり……
少し浮かれた気分で家を出る。少し早く起きたから、出るのもいつもより少し早い。だから、学校にも少し早く着く。教室にいたのは未だ五人。藤堂さんはいたけど、さっちゃんと神月君は未だいなかった。藤堂さんに、神月君の事で相談しようかとも思ったけど、勉強に集中してて声をかけ辛かったからやめた。する事が無かったから、しばらくぼーっとして過ごした。
さっちゃんは予鈴前に着た。五分くらい喋って、後は互いの席について一時間目の授業『数学A』の準備を始めた。問題の神月君は、授業開始前ギリギリに到着した。皆はさり気無く神月君から視線をそらしてるけど、私はそうもいかない。世話役だから、というよりは、放って置くのがそれはそれで胸が痛むから。
「遅かったね。道に迷ったの。」
「へへへ……月を見てたからさ。」
あ、また一つ気付いた。神月君も、月の話をしてる時だけは、少し顔が引き締まって普通の笑顔になるんだ。
「へー。えっと、昨日はどんな月だったっけ。」
「うーん、大体上弦の月かな。明日が十日夜だから。」
「十日夜……知らないなあ。」
「字の如く、月齢が大体十の月の事だよ。十五夜みたいな意味もあるけどね。」
「ふーん。」
ここで本鈴が鳴った。神月君も、月の話をしてる時はまともな人間の生気が有って、普通に接せられそう、なんて思った。
「んー、続きは次の休み時間ね。」
「え。あ、うん。」
甘かった。神月君の月への思いは一般人とは格が違う。もっと、マニアとかそんな感じに匹敵する。これはこれで痛い。
数学の授業中、神月君は大人しかった。というか、ちょっと後ろを振り返ったら、突っ伏して寝ていた。先生も、普段と変わらない授業をしていた。私も、後ろを気にせず授業に集中出来た。
結局、神月君は終わりの号令の時も突っ伏したままで、起立の合図があっても立たなかった。寝不足なのかもしれないとか、寝起きが悪かったらどうしようかとか、実はこの状態こそが恐れられる所以だとか……色んな憶測が飛び交って、結局誰も起こそうとしなかった。先生も。
そして、そのまま先生が教室を出て行って休み時間になった。
「で、さっきの話の続きだけどさ。」
「きゃっ。」
寝てると思ってた神月君がいきなり話しかけて来て、びっくりして声を上げちゃった。一瞬、皆がこっちを見たけど、またすぐに視線をそらす。
「ごめん、驚かせちゃったかな。へへへ……」
そう言って、神月君はまたその気持ち悪い笑みを浮かべる。
「ね、寝てたんじゃないの。」
「まあ、三十分くらいね。へへへ、面倒臭かったからそのまま寝た振りしてた。」
悪びれずにそういう事を言う姿にちょっとイラっとする。でも、我慢、我慢。
「そう、なの。」
「うん。悪いとは思うけどね。でも、礼の時だけ突然起きるってのもね。」
「いや、それでも起きるべきじゃないかな。」
「そうかな……じゃあ、今度からそうするよ。」
素直に聞いてくれたのが、驚き。
「それで、さっきの話の続きだけどさ……」
それからかれこれ八分、二時限目の本鈴が鳴るまで神月君の喋りっぱなし。質問を挟む余地も無いから、適当に相槌を打つだけ。神月君の話は本当に難しくて、それなりに勉強に自信のある私でも全く分からない様な様な言葉がポンポン出てくる。月齢も、月齢と月の形が必ずしも一致しないとか。神月君の月への愛は本物だと分かった。同時に、神月君と月の話をするのは危険だと分かった。まさに月マニアと言うべき月中毒。ついていけない。
「あー、もう時間か。御免ね、ちょっと熱が入りすぎちゃった。へへへ……」
神月君が、申し訳無さそうに少し笑う。照れ隠しの様で、可愛いなと、少しドキッとしたそのすぐ後に、段々といつもの醜い笑みに変わっていく。反射的に顔を背ける。顔を背けた後に、いけない事をしたと思ったけど、もうどうしようも無い。
結局、いつまで月を見ていて、いつ寝たのか、聞けなかった。
現代文の先生が、溜息を吐きながら入ってきた。生徒指導に熱を入れていた名残で、五十代後半に入って多少体力が衰えてきた今でも尚、生徒には恐れられている貫禄のある先生のいつもと違った雰囲気は、一瞬で生徒に不安感を広めた。そんな中行われるいつもの号令。それに合わせて皆が起立するのと一緒に、神月君もしっかり立った。安心した。これで、先生の悩みの種も尽きただろう。そう思った。
その後の授業中、ずっと、私や先生を含め、クラスにいる全員の開いた口が塞がらなかった。いつもは出席番号順に当てて、次の教材の文章を音読をさせるのだけど、そんな事はお構い無しに、神月君は手を挙げて読もうとした。先生は嫌そうな顔をしつつも、まあ初めての授業だし、と、神月君に読ませた。先生の様子から、クラスの皆も何か異様な雰囲気を感じ取ってたけど、まさにその通りだった。神月君は、次の教材で約二十ページに及ぶ小説を、実に感情のこもった喋りで、最初から最後まで三十分ほどかけて読み切っちゃった。先生が何度か止めようとしたけど、聴く耳を持たないで、むしろ音読の邪魔をされない様に、より一層声を張り上げて、音読をやり通した。それから後も、授業が終わるまで、先生が各登場人物の心情や場面状況について説明している所に横槍を突っ込んで、自分の意見を主張し続けた。音読も主張も凄く上手で的確で、先生も形無しだった。クラスの皆は、それまでと打って変わって、尊敬の眼差しで神月君を見ていた。確かに、この時の神月君は立派だったし、それまでのイメージを裏切る物だったのは間違いない。でも、こうやって簡単に評価を変えるのは、何か違和感を感じるなあ。
神月君による長い授業は、生徒の拍手を伴って終わった。先生はほとんど喋ってなかったけれど、疲れ切った様子で教室を出て行った。その後の教室は、さっきの授業の話題で持ちきりだった。
「神月ってアレゲな奴かと思ってたけど、案外すげーな。」
「だな。この際変なアレは無視する事にして、仲良くしとけば後で国語教えて貰えるんじゃね。」
「あー、それ良い考えだな。さっきのも、結構分かり易かったしな。」
「だな。アハハハハハ。」
「ハハハハハ。」
とか。
「ねえねえ、神月君って案外良いんじゃない。」
「えー、そう。」
「笑い方は気持ち悪いけど、そのくらいなら大丈夫でしょ。それよりさ、さっきの現代文の時間の神月君。ああ言うのって、将来有望じゃない。」
「教授とか。大変そうじゃない。」
「いやいや。教授どころか、芸能人とかも狙えるかもよ。」
「あんた、どんだけ夢見てんのよ。」
「でも、高校一年で先生をあそこまで打ちのめすなんて、相当な物でしょ。夢見れるわよ。」
「まあ、あんたがそこまで言うなら、応援してあげない事も無いけど。」
「そこまでじゃないよお。未だ様子見って感じ。」
「ああそう。」
とか。私の耳に届くっていう事は、当然真後ろの神月君の耳にも届いてるはずなんだけど。神月君は、こういうのをどう思ってるんだろ。当の本人は、さっきの授業の余韻で悦に浸ってるみたいだけど。
その後は、特に何か有った訳でもなく、一日が終わった。
神月君がクラスに馴染めるか、未だ心配です。
さっちゃんは予鈴前に着た。五分くらい喋って、後は互いの席について一時間目の授業『数学A』の準備を始めた。問題の神月君は、授業開始前ギリギリに到着した。皆はさり気無く神月君から視線をそらしてるけど、私はそうもいかない。世話役だから、というよりは、放って置くのがそれはそれで胸が痛むから。
「遅かったね。道に迷ったの。」
「へへへ……月を見てたからさ。」
あ、また一つ気付いた。神月君も、月の話をしてる時だけは、少し顔が引き締まって普通の笑顔になるんだ。
「へー。えっと、昨日はどんな月だったっけ。」
「うーん、大体上弦の月かな。明日が十日夜だから。」
「十日夜……知らないなあ。」
「字の如く、月齢が大体十の月の事だよ。十五夜みたいな意味もあるけどね。」
「ふーん。」
ここで本鈴が鳴った。神月君も、月の話をしてる時はまともな人間の生気が有って、普通に接せられそう、なんて思った。
「んー、続きは次の休み時間ね。」
「え。あ、うん。」
甘かった。神月君の月への思いは一般人とは格が違う。もっと、マニアとかそんな感じに匹敵する。これはこれで痛い。
数学の授業中、神月君は大人しかった。というか、ちょっと後ろを振り返ったら、突っ伏して寝ていた。先生も、普段と変わらない授業をしていた。私も、後ろを気にせず授業に集中出来た。
結局、神月君は終わりの号令の時も突っ伏したままで、起立の合図があっても立たなかった。寝不足なのかもしれないとか、寝起きが悪かったらどうしようかとか、実はこの状態こそが恐れられる所以だとか……色んな憶測が飛び交って、結局誰も起こそうとしなかった。先生も。
そして、そのまま先生が教室を出て行って休み時間になった。
「で、さっきの話の続きだけどさ。」
「きゃっ。」
寝てると思ってた神月君がいきなり話しかけて来て、びっくりして声を上げちゃった。一瞬、皆がこっちを見たけど、またすぐに視線をそらす。
「ごめん、驚かせちゃったかな。へへへ……」
そう言って、神月君はまたその気持ち悪い笑みを浮かべる。
「ね、寝てたんじゃないの。」
「まあ、三十分くらいね。へへへ、面倒臭かったからそのまま寝た振りしてた。」
悪びれずにそういう事を言う姿にちょっとイラっとする。でも、我慢、我慢。
「そう、なの。」
「うん。悪いとは思うけどね。でも、礼の時だけ突然起きるってのもね。」
「いや、それでも起きるべきじゃないかな。」
「そうかな……じゃあ、今度からそうするよ。」
素直に聞いてくれたのが、驚き。
「それで、さっきの話の続きだけどさ……」
それからかれこれ八分、二時限目の本鈴が鳴るまで神月君の喋りっぱなし。質問を挟む余地も無いから、適当に相槌を打つだけ。神月君の話は本当に難しくて、それなりに勉強に自信のある私でも全く分からない様な様な言葉がポンポン出てくる。月齢も、月齢と月の形が必ずしも一致しないとか。神月君の月への愛は本物だと分かった。同時に、神月君と月の話をするのは危険だと分かった。まさに月マニアと言うべき月中毒。ついていけない。
「あー、もう時間か。御免ね、ちょっと熱が入りすぎちゃった。へへへ……」
神月君が、申し訳無さそうに少し笑う。照れ隠しの様で、可愛いなと、少しドキッとしたそのすぐ後に、段々といつもの醜い笑みに変わっていく。反射的に顔を背ける。顔を背けた後に、いけない事をしたと思ったけど、もうどうしようも無い。
結局、いつまで月を見ていて、いつ寝たのか、聞けなかった。
現代文の先生が、溜息を吐きながら入ってきた。生徒指導に熱を入れていた名残で、五十代後半に入って多少体力が衰えてきた今でも尚、生徒には恐れられている貫禄のある先生のいつもと違った雰囲気は、一瞬で生徒に不安感を広めた。そんな中行われるいつもの号令。それに合わせて皆が起立するのと一緒に、神月君もしっかり立った。安心した。これで、先生の悩みの種も尽きただろう。そう思った。
その後の授業中、ずっと、私や先生を含め、クラスにいる全員の開いた口が塞がらなかった。いつもは出席番号順に当てて、次の教材の文章を音読をさせるのだけど、そんな事はお構い無しに、神月君は手を挙げて読もうとした。先生は嫌そうな顔をしつつも、まあ初めての授業だし、と、神月君に読ませた。先生の様子から、クラスの皆も何か異様な雰囲気を感じ取ってたけど、まさにその通りだった。神月君は、次の教材で約二十ページに及ぶ小説を、実に感情のこもった喋りで、最初から最後まで三十分ほどかけて読み切っちゃった。先生が何度か止めようとしたけど、聴く耳を持たないで、むしろ音読の邪魔をされない様に、より一層声を張り上げて、音読をやり通した。それから後も、授業が終わるまで、先生が各登場人物の心情や場面状況について説明している所に横槍を突っ込んで、自分の意見を主張し続けた。音読も主張も凄く上手で的確で、先生も形無しだった。クラスの皆は、それまでと打って変わって、尊敬の眼差しで神月君を見ていた。確かに、この時の神月君は立派だったし、それまでのイメージを裏切る物だったのは間違いない。でも、こうやって簡単に評価を変えるのは、何か違和感を感じるなあ。
神月君による長い授業は、生徒の拍手を伴って終わった。先生はほとんど喋ってなかったけれど、疲れ切った様子で教室を出て行った。その後の教室は、さっきの授業の話題で持ちきりだった。
「神月ってアレゲな奴かと思ってたけど、案外すげーな。」
「だな。この際変なアレは無視する事にして、仲良くしとけば後で国語教えて貰えるんじゃね。」
「あー、それ良い考えだな。さっきのも、結構分かり易かったしな。」
「だな。アハハハハハ。」
「ハハハハハ。」
とか。
「ねえねえ、神月君って案外良いんじゃない。」
「えー、そう。」
「笑い方は気持ち悪いけど、そのくらいなら大丈夫でしょ。それよりさ、さっきの現代文の時間の神月君。ああ言うのって、将来有望じゃない。」
「教授とか。大変そうじゃない。」
「いやいや。教授どころか、芸能人とかも狙えるかもよ。」
「あんた、どんだけ夢見てんのよ。」
「でも、高校一年で先生をあそこまで打ちのめすなんて、相当な物でしょ。夢見れるわよ。」
「まあ、あんたがそこまで言うなら、応援してあげない事も無いけど。」
「そこまでじゃないよお。未だ様子見って感じ。」
「ああそう。」
とか。私の耳に届くっていう事は、当然真後ろの神月君の耳にも届いてるはずなんだけど。神月君は、こういうのをどう思ってるんだろ。当の本人は、さっきの授業の余韻で悦に浸ってるみたいだけど。
その後は、特に何か有った訳でもなく、一日が終わった。
神月君がクラスに馴染めるか、未だ心配です。
その後は、精神的にきつかった。体育館へ行く間中、ずっと私の顔を見て笑ってる神月君。特別教室の前を通り過ぎたりする度に、どこに何の教室があるとか、色んな事を説明したけど聞いて無さそう。終業式でも、遅く着たからって、私の隣に神月君が並ぶ事になって。これは先生から生徒への新手のイジメなのか。もしかして、これからずっと、神月君の面倒見係になるのか。それは許せない、認めない。クラス全員で厄介者扱いするみたいな、そんな事はあっちゃいけない。さっちゃん、助けて……無理か。
結局、ホームルームが終わるまでずっと、神月君は私にくっついていた。神月君について一つだけ分かった事は、月が好きだって事。何でこの学校に来たのか聞いたら、目を輝かせて「都会じゃ月が綺麗に見えないからね。この町は空気が澄んでて月が綺麗に見えるって聞いたから。」って。何でこの町に来たのか、他にもそういう田舎は一杯あるのに、って聞いたら、あの気味の悪い笑顔で誤魔化されちゃったけど、でも、月の話をした時にガラッと変わった神月君のその表情。何考えてるのか分からない気持ち悪い笑いから、純真無垢な子供が大好きな物に目を輝かせるみたいになって、ちょっと可愛いって思っちゃった。そんな事を帰りにさっちゃんに話したら、
「あんた、偉い。うん、皆があんたの働きに期待してるよ。これから最低三ヶ月、頑張れ。」
だって。
「皆、神月君が手のかかる子みたいに考えてるの。ってか、私一人でやるわけ。皆で支えようっていう気は無いの。イジメだよ、それじゃあ。」
って反論したけど、
「クラスの雰囲気的には無い。今の所、誰も手を差し伸べようっていう素振りを見せた奴はいないね。私も当然。面倒事には関わりたくないし、やさしいあんたが適任なのよ。」
だなんて。薄情者め。
「でも、藤堂さんならきっと。」
「藤堂は萎縮してたからねえ。神月や、神月の周りの雰囲気に。」
「そんなあ。うー、藤堂さんは信じてたのに……」
「まっ、神月が本当に「実は凄い奴」なら皆の印象も変わるって。」
頭がおかしいという噂、先生の態度から考えて、その可能性は限りなく低いよなあ……分かってて言ってるんだろうなあ。こういう時だけ、さっちゃんが恨めしい。
「あんなにずっとにやにやされ続ける役をやるのは、一日だって嫌だよ……」
「そんなに見つめるって事は、実はあんたの事を好きなんじゃないの。」
「まさかの一目惚れ。」
頭から少し血が引く。さっちゃんは冗談で言ってるけど、何考えてるか分からない神月君の事だから、逆に言えばどんな事でも可能性はある。そう考えると、さっちゃんの言った事がとても恐ろしく思われる。
「精々頑張りなさいよ、後腐れの無い様に振る方法を考えるのを。」
「そんなの無理だって……何考えてるか分からないし、何をどう感じるのかも分からないのに。」
「じゃあ、そんな事が起こらない様に祈りましょう。」
「無茶な……」
さっちゃんは完全に冗談っぽく喋ってるけど、当事者の私にとっては冗談じゃ済まされない。
「さっちゃん……いざとなったら相談に乗ってよ……」
さっちゃんは、なんだかんだ言って結構当てになる。面倒臭がりで、よっぽどな事じゃ無ければたまにしか相談に乗ってくれないのが玉に瑕だけど。
「まあ、その時が来たらね。それじゃあまた明日。神月の事以外だったら相談乗るからさ。」
「神月君の事で相談させてよ。」
家に入ろうとするさっちゃんに向かって私はそう叫んだけど、片手でこっちに手を振ってそのままドアの向こうへ。鬼、悪魔、そんな汚い言葉が思い浮かぶけど、こんな感じでも頼れるんだから、人は見かけじゃ分からない。そう、神月君も……
さっちゃんと分かれた私は、頭を切り替えて神月君の事を考えない様にした。というか、神月君の事を考えると、あの嫌な笑顔が頭に浮かんで苦痛だった。神月君のせいで、今日一日で心が大分荒んだ。いつものアレで、心を癒そう。
そして私は、自分の部屋に入り、着替えもせずにヘッドフォンを着けて、オーディオプレーヤー片手に仰向けにベッドへ倒れこむ。バスブーストをかけて、イコライザを調整し、高音を抑えて重低音をきつくして、いつもより音量を上げる。こうすると、ヘッドフォンでも重低音の振動を体で感じられる。だから、耳で旋律を聴くよりも、音楽と一体感を持てて凄く良い気分に浸れる。耳に悪いから、今日みたいに気分が悪い時にしかやらないんだけど。曲選は、こういう気分の時に聴く為に作った、特製プレイリスト。全七曲で三十分弱の、ハードロックとヘヴィメタル系。曲順も決めてあって、段々ボルテージが上がる様に、ハードな中でも大人しめのから並べてある。
これから始まる狂気とも言うべき時間を想像して、心臓の鼓動を一層跳ね上げながら、私は再生ボタンを押す。一曲目、初めは抑え目に始まる。でも、すぐに激しくなる。どんどん調子を上げるドラムの音に同調する様に、私の鼓動も速くなる。
「はあ……疲れた……」
聴き始めてから三十分経って、聴き終わる。激しい心と体の揺さぶりから開放され、心の安定を一時的に失って、ついつい独り言が漏れる。体の中に有った不愉快な気分は粉々に打ち砕かれて消滅し、代わりに疲労感、開放感、充足感が私を満たす。満ち足りた、良い気分。これ、これが良い。最高。
耳の熱を冷ます為にヘッドフォンを外して一息吐くと、いつもの様に、疲労感でふらふらになりながらも、制服を着替える。時計を見ると、未だ十一時半を過ぎたばかり。そう言えば、今日は始業式だったから、未だお昼まで時間が有るんだった。取りあえずメールを確認する。……何も着てない。宿題も出てないし、遊ぶ気も無い。やる事が無い。
すっきりしたというより、すっからかんになった頭で、次にやる事を考える。そう言えば、神月君との会話で、気にかかってた事があった。
「何でこの町に来たの。他にもこういう……田舎は一杯あるでしょ。」
「……へへへ……」
「……自分で自分の住んでる町を田舎って言うの、何だか抵抗あるな……」
「へへへ、田舎だって悪くないよ。田舎に無くて都会に有る物と同じくらい、都会に無くて田舎に有る物が一杯ある。」
「そう、かな。」
「うん。」
あの時、何故誤魔化したんだろう。単に言いたくなかっただけかもしれない。他に何か理由があるとすると、うーん……簡単に人に言えない事となると、家庭の事情かなあ。親に何かあって、親戚に預けられたとか。そうだとすると、あんまり首を突っ込んじゃいけないな。
私はそれだけ考えて、神月君について考えるのをやめた。
その後は、いつも通りの生活を送った。友達とメールしたり、音楽を聴いたり、ちょっと勉強したり。そして、十一時に寝た。
朝六時半ちょっと前、目覚ましが鳴る前に、カーテン越しに差し込むお日様の光で気持ち良く目覚める。軽く両腕を上に伸ばすと、全身の筋肉に、徐々に力が入り始めて、目がパッチリ開く。そして、未だ役目を果たしていない目覚まし時計を止める。誰にも邪魔されない、凄く気持ち良い朝。
今日は、何か良い事がありそうです。
結局、ホームルームが終わるまでずっと、神月君は私にくっついていた。神月君について一つだけ分かった事は、月が好きだって事。何でこの学校に来たのか聞いたら、目を輝かせて「都会じゃ月が綺麗に見えないからね。この町は空気が澄んでて月が綺麗に見えるって聞いたから。」って。何でこの町に来たのか、他にもそういう田舎は一杯あるのに、って聞いたら、あの気味の悪い笑顔で誤魔化されちゃったけど、でも、月の話をした時にガラッと変わった神月君のその表情。何考えてるのか分からない気持ち悪い笑いから、純真無垢な子供が大好きな物に目を輝かせるみたいになって、ちょっと可愛いって思っちゃった。そんな事を帰りにさっちゃんに話したら、
「あんた、偉い。うん、皆があんたの働きに期待してるよ。これから最低三ヶ月、頑張れ。」
だって。
「皆、神月君が手のかかる子みたいに考えてるの。ってか、私一人でやるわけ。皆で支えようっていう気は無いの。イジメだよ、それじゃあ。」
って反論したけど、
「クラスの雰囲気的には無い。今の所、誰も手を差し伸べようっていう素振りを見せた奴はいないね。私も当然。面倒事には関わりたくないし、やさしいあんたが適任なのよ。」
だなんて。薄情者め。
「でも、藤堂さんならきっと。」
「藤堂は萎縮してたからねえ。神月や、神月の周りの雰囲気に。」
「そんなあ。うー、藤堂さんは信じてたのに……」
「まっ、神月が本当に「実は凄い奴」なら皆の印象も変わるって。」
頭がおかしいという噂、先生の態度から考えて、その可能性は限りなく低いよなあ……分かってて言ってるんだろうなあ。こういう時だけ、さっちゃんが恨めしい。
「あんなにずっとにやにやされ続ける役をやるのは、一日だって嫌だよ……」
「そんなに見つめるって事は、実はあんたの事を好きなんじゃないの。」
「まさかの一目惚れ。」
頭から少し血が引く。さっちゃんは冗談で言ってるけど、何考えてるか分からない神月君の事だから、逆に言えばどんな事でも可能性はある。そう考えると、さっちゃんの言った事がとても恐ろしく思われる。
「精々頑張りなさいよ、後腐れの無い様に振る方法を考えるのを。」
「そんなの無理だって……何考えてるか分からないし、何をどう感じるのかも分からないのに。」
「じゃあ、そんな事が起こらない様に祈りましょう。」
「無茶な……」
さっちゃんは完全に冗談っぽく喋ってるけど、当事者の私にとっては冗談じゃ済まされない。
「さっちゃん……いざとなったら相談に乗ってよ……」
さっちゃんは、なんだかんだ言って結構当てになる。面倒臭がりで、よっぽどな事じゃ無ければたまにしか相談に乗ってくれないのが玉に瑕だけど。
「まあ、その時が来たらね。それじゃあまた明日。神月の事以外だったら相談乗るからさ。」
「神月君の事で相談させてよ。」
家に入ろうとするさっちゃんに向かって私はそう叫んだけど、片手でこっちに手を振ってそのままドアの向こうへ。鬼、悪魔、そんな汚い言葉が思い浮かぶけど、こんな感じでも頼れるんだから、人は見かけじゃ分からない。そう、神月君も……
さっちゃんと分かれた私は、頭を切り替えて神月君の事を考えない様にした。というか、神月君の事を考えると、あの嫌な笑顔が頭に浮かんで苦痛だった。神月君のせいで、今日一日で心が大分荒んだ。いつものアレで、心を癒そう。
そして私は、自分の部屋に入り、着替えもせずにヘッドフォンを着けて、オーディオプレーヤー片手に仰向けにベッドへ倒れこむ。バスブーストをかけて、イコライザを調整し、高音を抑えて重低音をきつくして、いつもより音量を上げる。こうすると、ヘッドフォンでも重低音の振動を体で感じられる。だから、耳で旋律を聴くよりも、音楽と一体感を持てて凄く良い気分に浸れる。耳に悪いから、今日みたいに気分が悪い時にしかやらないんだけど。曲選は、こういう気分の時に聴く為に作った、特製プレイリスト。全七曲で三十分弱の、ハードロックとヘヴィメタル系。曲順も決めてあって、段々ボルテージが上がる様に、ハードな中でも大人しめのから並べてある。
これから始まる狂気とも言うべき時間を想像して、心臓の鼓動を一層跳ね上げながら、私は再生ボタンを押す。一曲目、初めは抑え目に始まる。でも、すぐに激しくなる。どんどん調子を上げるドラムの音に同調する様に、私の鼓動も速くなる。
「はあ……疲れた……」
聴き始めてから三十分経って、聴き終わる。激しい心と体の揺さぶりから開放され、心の安定を一時的に失って、ついつい独り言が漏れる。体の中に有った不愉快な気分は粉々に打ち砕かれて消滅し、代わりに疲労感、開放感、充足感が私を満たす。満ち足りた、良い気分。これ、これが良い。最高。
耳の熱を冷ます為にヘッドフォンを外して一息吐くと、いつもの様に、疲労感でふらふらになりながらも、制服を着替える。時計を見ると、未だ十一時半を過ぎたばかり。そう言えば、今日は始業式だったから、未だお昼まで時間が有るんだった。取りあえずメールを確認する。……何も着てない。宿題も出てないし、遊ぶ気も無い。やる事が無い。
すっきりしたというより、すっからかんになった頭で、次にやる事を考える。そう言えば、神月君との会話で、気にかかってた事があった。
「何でこの町に来たの。他にもこういう……田舎は一杯あるでしょ。」
「……へへへ……」
「……自分で自分の住んでる町を田舎って言うの、何だか抵抗あるな……」
「へへへ、田舎だって悪くないよ。田舎に無くて都会に有る物と同じくらい、都会に無くて田舎に有る物が一杯ある。」
「そう、かな。」
「うん。」
あの時、何故誤魔化したんだろう。単に言いたくなかっただけかもしれない。他に何か理由があるとすると、うーん……簡単に人に言えない事となると、家庭の事情かなあ。親に何かあって、親戚に預けられたとか。そうだとすると、あんまり首を突っ込んじゃいけないな。
私はそれだけ考えて、神月君について考えるのをやめた。
その後は、いつも通りの生活を送った。友達とメールしたり、音楽を聴いたり、ちょっと勉強したり。そして、十一時に寝た。
朝六時半ちょっと前、目覚ましが鳴る前に、カーテン越しに差し込むお日様の光で気持ち良く目覚める。軽く両腕を上に伸ばすと、全身の筋肉に、徐々に力が入り始めて、目がパッチリ開く。そして、未だ役目を果たしていない目覚まし時計を止める。誰にも邪魔されない、凄く気持ち良い朝。
今日は、何か良い事がありそうです。
「でさ、昨日のテレビでさ……」
冬休みが終わって新学期早々の友達との会話。冬休みが終わって久しぶりに会うのに、昨日も学校に来てお喋りしてたみたいな普段と変わりない日常会話。冬休みに何かのイベントが有った訳でも無く、平々凡々な生活を送ってきた私にこの仕打ち。もっと何か刺激が欲しいよ。このままだと、新学期早々冬眠してしまいそう。
「ねえ、何かこう、いつもと違う話題は無いの。冬休みが終わって新学期が始まる初日だって言うのに、いつもと同じ様な話ってさあ……」
私が話に水を差すと、さっちゃんが嫌そうな顔をした。そりゃあ、毎日メールのやり取りをしたり、冬休み中に何回か一緒に遊んでいれば、久々に会うなんていう実感は無いけどさ。
でも、さっちゃんに嫌な思いをさせた事はちょっと後悔。
「あー、一つだけ有ったわ。このクラスに転校生が来るってさ。」
「それ本当。どこで聞いたの。」
ぱっと私の胸が弾む。
転校生が来るなんて、学校のイベントとしては突発的で、最も刺激的な出来事の一つじゃない。そういうのはもっと早く言うべきよね。
「皆噂してたし、先生達の雰囲気がいつもと違ったし、見慣れない車が学校の駐車場に有ったし。」
「それじゃあ間違いなさそうだね。」
「噂によるとね。男だってさ。」
「どんな感じかな。」
期待が益々膨らむ。頭の中にはもう、三パターンくらいの想像が出来上がっちゃってる。
別に女の子でも良いんだけどね。ほら、想像するにも多少の情報が有った方がやり易いじゃない。
なんて、自分に言い訳してみる。
「んー、なんか期待してる所悪いけど、頭がおかしいらしいのよ。」
「えっ……おかしいって、どういう事。」
「脳の病気っていう噂だけど。」
一瞬にして、期待が崩れた。それは想像以上に刺激的な事かもしれないけど、喜べる事じゃない。それに、他人事であろうと無かろうと、そんな事で喜べる程、私は酷い人間じゃない。
「でも……本当の所はどうなんだろうねえ。」
何故か、さっちゃんが首をかしげる。
「どういう事。」
「普通学校に来るって事は、編入試験に受かったとか、単位を満たしてたって事じゃないの。良く分かんないけど、うちの高校には障害者を受け入れる様な特別な活動はしてないし。」
「あー、そう言えばそうだね。もしかしたら、馬鹿と天才は紙一重みたいな感じで、実は何か天才的な能力を持ってる、とかかな。」
「そうかもねえ。まあ、実際に会ってみないとそれは分からないわ。」
「そうだね。」
実は凄いかもしれないって言っても、頭がおかしいって噂されるくらいなんだから、喜べないか。
「でもねえ、さっちゃん。イジメちゃ駄目だよ。」
「な、何よ突然。イジメないわよ。あんたねえ、私がそんな事すると思う。」
さっちゃんが少し怒った。
「そりゃあ……」
さっちゃんは小さい頃からの友達だから、考える事は大体分かる。さっちゃんの面倒臭がりな性格から考えて、無視しそうだから言っているんだけど。
「むしろ一切関わりたく無いわね。」
やっぱり。無視も立派なイジメの一つなんだけどなあ。でも、ここで話をややこしくしても良くないから、冗談めいた感じにして誤魔化す。
「さっちゃんひどーい。」
「酷いってねえ……。」
「アハハ、冗談よ、冗談。」
さっちゃんが呆れ顔になった。まあ、これでいいかな。
転校生の話題が途切れて、何を話そうかと思った途端に先生が来た。皆が自分の席に戻る。
先生が教室に入ると、学級委員がすぐに号令をかけて、皆が起立しようとした。だけど、先生はそれを手で静止して、皆を座らせた。先生のすぐ後ろには、転校生らしい男の子がついていた。一番後ろの席だから良く分からないけど、パッと見は普通な感じ。
「えー、今日は始業式がありますが、その前に転校生の紹介をします。」
いつもより先生のテンションが低いのは、さっきのさっちゃんの話を聞く限りでは気のせいじゃないな。これから紹介する生徒がクラスに馴染めるとは思えないだろうしなあ。
「神月満(かみつき・みちる)君です。えー……皆、仲良くしましょう。」
先生が紹介してる横で、神月君はマイペースに黒板に自分の名前を書いていた。
ここまでは良かった。この程度だったら、多分、すんなりクラスに馴染めたと思う。でも、神月君はやっぱり問題児だった。
「へへへ……神月満です。よろしく。」
大勢の前で緊張してあがってる、何の変哲も無い子とは違う。笑い方が、照れ隠しと明らかに違って、感情を制御出来ずに常に笑ってる、そんな感じ。多分、クラス全員が引いてる。先生は片手を額にあて溜息をついているし、前途多難ね、これは。
「神月君は一番後ろの席で良いんだっけ。」
「視力的には問題無いですよ、でも、出来れば一番前の席が良いなあ。」
さっきの先生の言葉に、神月君を目の前にして授業するのが辛い、という意思が感じられるのが悲しい。って、あー、神月君が一番後ろの席に来るとなると私の後ろの席になるかもしれないのか。後ろであんな風にずっとにやにやされるのは、流石に気持ち悪いなあ。
さっちゃんは三列目だから、六列目の私と違って、一番前の席になろうと一番後ろの席になろうと関係ない。だから、もう関係無い、って突っ伏してる。
「そ、そうか。それじゃあ、えっと、一番前の列の奴、誰か後ろに行っても良いって奴はいるか。」
先生が明らかにうろたえてる。そんなに嫌なのか。それとも、最前列で授業を妨害する様な子なのか。
最前列の六人の内、二人は視力の問題で前にいるから絶対に動かない。後は、残りの四人が空気を読むかどうか。
「あ、あの……」
あー、気弱だけど優しい藤堂さんが譲ろうとしてる。彼女の事だから、誰かが席を譲って近くに座る事になるのを避けたんじゃなくて、神月君の望みを適えてあげようとしたんだろうけど……そこは空気読んだ方が良いな。
「な、なんだ、藤堂。」
先生の顔が引きつってるし、語気も強い。横に立ってまっすぐこっちの方を見てる神月君は気付かないかもしれないけど、先生の顔が、今まで付き合ってきた九ヶ月で見た事の無い、こんな状況で無ければ思わず噴出してしまいそうな、面白くて怖い顔になってる。何人かは笑いを必死にこらえてる。
「あ、いえ……なんでも無いです……」
さすが気弱な藤堂さん。先生の形相にたじろいで、席を譲るのをやめちゃった。結果オーライ。あれだけ先生が一番後ろの席にしたがってるんだから、何か重大な理由があるんでしょう。これで良いんだ、うん。
「そ、そうか。ならいい、ハハハハハ……」
先生の顔が緩んだ。それは露骨過ぎじゃないかな。神月君は気付いてないみたいだけど、クラスの全員がそれを見てるんだから。教育者としてどうなの、その態度。率先してイジメなさいって言ってる様な物だよ。第一、神月君だって、もしかしたら気付いてるけど気付いてない振りをしてるとか……って、それはないか。
「誰もいないみたいだな……それじゃあ神月、悪いけど後ろの席な。」
「別に良いですよ、へへへ……」
駄々をこねたりはしないんだ。今の所、にやにやしている以外に変な所が見当たらない。まあ、常ににやにやしてる時点で十分気持ち悪いけど。
「そ、そうかそうか、済まないな。」
「うん。」
受け答えは、敬語を使えてないのに目をつぶれば、凄くしっかりしてる。凄く意外。
「机と椅子は廊下に一組用意してあるから、適当な所に運んで座ってくれ」
「はーい。」
神月君はすぐに机と椅子を持って教室の後ろの扉から入ってきた。
あー、緊張する。男子には悪いけど、男子の後ろを素直に選んでくれれば何の問題も無いのになあ。どんな理由があるにしろ、女の子の後ろでにやにやする男子はさすがに引くよねえ。
どうか、男子の後ろの席を選びますように。
「じゃあ、僕はここで。へへへ……」
「それじゃあ、皆体育館に移動。」
「はーい。」
「光山、悪いけど神月の事よろしくな。」
「……はい……」
悲しいかな、神月君が選んだのは私の後ろの席。
「へへへ……光山美月(こうやま・みつき)さん、よろしくね。」
「あ……よ、よろしくね、ハハハハハ……」
私もつられて笑い返す。苦笑だけど。
一番最初に名前を覚えられちゃったよ……椅子の背もたれの後ろに貼ってあるネームシールのせいか。
病気だか何だか知らないし、そんな事で差別しちゃいけないと頭では分かってるけど、真後ろでニタニタされるのは気味悪がっても別に罰は当たらないよね……
さっちゃんを見ると、励ましてくれてるのか、自分に災難が降りかからなくて嬉しかったのか、私に向かってガッツポーズを返して、そのまま私を置いて体育館に向かって行っちゃった。教室には、未だその笑顔と言うのも嫌な笑みを崩さない神月君と、私の二人だけ。皆はもう、足早に教室を出てった。あーもう、新学期早々憂鬱。
悪い意味で、刺激的な日々が続きそうです。
冬休みが終わって新学期早々の友達との会話。冬休みが終わって久しぶりに会うのに、昨日も学校に来てお喋りしてたみたいな普段と変わりない日常会話。冬休みに何かのイベントが有った訳でも無く、平々凡々な生活を送ってきた私にこの仕打ち。もっと何か刺激が欲しいよ。このままだと、新学期早々冬眠してしまいそう。
「ねえ、何かこう、いつもと違う話題は無いの。冬休みが終わって新学期が始まる初日だって言うのに、いつもと同じ様な話ってさあ……」
私が話に水を差すと、さっちゃんが嫌そうな顔をした。そりゃあ、毎日メールのやり取りをしたり、冬休み中に何回か一緒に遊んでいれば、久々に会うなんていう実感は無いけどさ。
でも、さっちゃんに嫌な思いをさせた事はちょっと後悔。
「あー、一つだけ有ったわ。このクラスに転校生が来るってさ。」
「それ本当。どこで聞いたの。」
ぱっと私の胸が弾む。
転校生が来るなんて、学校のイベントとしては突発的で、最も刺激的な出来事の一つじゃない。そういうのはもっと早く言うべきよね。
「皆噂してたし、先生達の雰囲気がいつもと違ったし、見慣れない車が学校の駐車場に有ったし。」
「それじゃあ間違いなさそうだね。」
「噂によるとね。男だってさ。」
「どんな感じかな。」
期待が益々膨らむ。頭の中にはもう、三パターンくらいの想像が出来上がっちゃってる。
別に女の子でも良いんだけどね。ほら、想像するにも多少の情報が有った方がやり易いじゃない。
なんて、自分に言い訳してみる。
「んー、なんか期待してる所悪いけど、頭がおかしいらしいのよ。」
「えっ……おかしいって、どういう事。」
「脳の病気っていう噂だけど。」
一瞬にして、期待が崩れた。それは想像以上に刺激的な事かもしれないけど、喜べる事じゃない。それに、他人事であろうと無かろうと、そんな事で喜べる程、私は酷い人間じゃない。
「でも……本当の所はどうなんだろうねえ。」
何故か、さっちゃんが首をかしげる。
「どういう事。」
「普通学校に来るって事は、編入試験に受かったとか、単位を満たしてたって事じゃないの。良く分かんないけど、うちの高校には障害者を受け入れる様な特別な活動はしてないし。」
「あー、そう言えばそうだね。もしかしたら、馬鹿と天才は紙一重みたいな感じで、実は何か天才的な能力を持ってる、とかかな。」
「そうかもねえ。まあ、実際に会ってみないとそれは分からないわ。」
「そうだね。」
実は凄いかもしれないって言っても、頭がおかしいって噂されるくらいなんだから、喜べないか。
「でもねえ、さっちゃん。イジメちゃ駄目だよ。」
「な、何よ突然。イジメないわよ。あんたねえ、私がそんな事すると思う。」
さっちゃんが少し怒った。
「そりゃあ……」
さっちゃんは小さい頃からの友達だから、考える事は大体分かる。さっちゃんの面倒臭がりな性格から考えて、無視しそうだから言っているんだけど。
「むしろ一切関わりたく無いわね。」
やっぱり。無視も立派なイジメの一つなんだけどなあ。でも、ここで話をややこしくしても良くないから、冗談めいた感じにして誤魔化す。
「さっちゃんひどーい。」
「酷いってねえ……。」
「アハハ、冗談よ、冗談。」
さっちゃんが呆れ顔になった。まあ、これでいいかな。
転校生の話題が途切れて、何を話そうかと思った途端に先生が来た。皆が自分の席に戻る。
先生が教室に入ると、学級委員がすぐに号令をかけて、皆が起立しようとした。だけど、先生はそれを手で静止して、皆を座らせた。先生のすぐ後ろには、転校生らしい男の子がついていた。一番後ろの席だから良く分からないけど、パッと見は普通な感じ。
「えー、今日は始業式がありますが、その前に転校生の紹介をします。」
いつもより先生のテンションが低いのは、さっきのさっちゃんの話を聞く限りでは気のせいじゃないな。これから紹介する生徒がクラスに馴染めるとは思えないだろうしなあ。
「神月満(かみつき・みちる)君です。えー……皆、仲良くしましょう。」
先生が紹介してる横で、神月君はマイペースに黒板に自分の名前を書いていた。
ここまでは良かった。この程度だったら、多分、すんなりクラスに馴染めたと思う。でも、神月君はやっぱり問題児だった。
「へへへ……神月満です。よろしく。」
大勢の前で緊張してあがってる、何の変哲も無い子とは違う。笑い方が、照れ隠しと明らかに違って、感情を制御出来ずに常に笑ってる、そんな感じ。多分、クラス全員が引いてる。先生は片手を額にあて溜息をついているし、前途多難ね、これは。
「神月君は一番後ろの席で良いんだっけ。」
「視力的には問題無いですよ、でも、出来れば一番前の席が良いなあ。」
さっきの先生の言葉に、神月君を目の前にして授業するのが辛い、という意思が感じられるのが悲しい。って、あー、神月君が一番後ろの席に来るとなると私の後ろの席になるかもしれないのか。後ろであんな風にずっとにやにやされるのは、流石に気持ち悪いなあ。
さっちゃんは三列目だから、六列目の私と違って、一番前の席になろうと一番後ろの席になろうと関係ない。だから、もう関係無い、って突っ伏してる。
「そ、そうか。それじゃあ、えっと、一番前の列の奴、誰か後ろに行っても良いって奴はいるか。」
先生が明らかにうろたえてる。そんなに嫌なのか。それとも、最前列で授業を妨害する様な子なのか。
最前列の六人の内、二人は視力の問題で前にいるから絶対に動かない。後は、残りの四人が空気を読むかどうか。
「あ、あの……」
あー、気弱だけど優しい藤堂さんが譲ろうとしてる。彼女の事だから、誰かが席を譲って近くに座る事になるのを避けたんじゃなくて、神月君の望みを適えてあげようとしたんだろうけど……そこは空気読んだ方が良いな。
「な、なんだ、藤堂。」
先生の顔が引きつってるし、語気も強い。横に立ってまっすぐこっちの方を見てる神月君は気付かないかもしれないけど、先生の顔が、今まで付き合ってきた九ヶ月で見た事の無い、こんな状況で無ければ思わず噴出してしまいそうな、面白くて怖い顔になってる。何人かは笑いを必死にこらえてる。
「あ、いえ……なんでも無いです……」
さすが気弱な藤堂さん。先生の形相にたじろいで、席を譲るのをやめちゃった。結果オーライ。あれだけ先生が一番後ろの席にしたがってるんだから、何か重大な理由があるんでしょう。これで良いんだ、うん。
「そ、そうか。ならいい、ハハハハハ……」
先生の顔が緩んだ。それは露骨過ぎじゃないかな。神月君は気付いてないみたいだけど、クラスの全員がそれを見てるんだから。教育者としてどうなの、その態度。率先してイジメなさいって言ってる様な物だよ。第一、神月君だって、もしかしたら気付いてるけど気付いてない振りをしてるとか……って、それはないか。
「誰もいないみたいだな……それじゃあ神月、悪いけど後ろの席な。」
「別に良いですよ、へへへ……」
駄々をこねたりはしないんだ。今の所、にやにやしている以外に変な所が見当たらない。まあ、常ににやにやしてる時点で十分気持ち悪いけど。
「そ、そうかそうか、済まないな。」
「うん。」
受け答えは、敬語を使えてないのに目をつぶれば、凄くしっかりしてる。凄く意外。
「机と椅子は廊下に一組用意してあるから、適当な所に運んで座ってくれ」
「はーい。」
神月君はすぐに机と椅子を持って教室の後ろの扉から入ってきた。
あー、緊張する。男子には悪いけど、男子の後ろを素直に選んでくれれば何の問題も無いのになあ。どんな理由があるにしろ、女の子の後ろでにやにやする男子はさすがに引くよねえ。
どうか、男子の後ろの席を選びますように。
「じゃあ、僕はここで。へへへ……」
「それじゃあ、皆体育館に移動。」
「はーい。」
「光山、悪いけど神月の事よろしくな。」
「……はい……」
悲しいかな、神月君が選んだのは私の後ろの席。
「へへへ……光山美月(こうやま・みつき)さん、よろしくね。」
「あ……よ、よろしくね、ハハハハハ……」
私もつられて笑い返す。苦笑だけど。
一番最初に名前を覚えられちゃったよ……椅子の背もたれの後ろに貼ってあるネームシールのせいか。
病気だか何だか知らないし、そんな事で差別しちゃいけないと頭では分かってるけど、真後ろでニタニタされるのは気味悪がっても別に罰は当たらないよね……
さっちゃんを見ると、励ましてくれてるのか、自分に災難が降りかからなくて嬉しかったのか、私に向かってガッツポーズを返して、そのまま私を置いて体育館に向かって行っちゃった。教室には、未だその笑顔と言うのも嫌な笑みを崩さない神月君と、私の二人だけ。皆はもう、足早に教室を出てった。あーもう、新学期早々憂鬱。
悪い意味で、刺激的な日々が続きそうです。
消失
母親と赤子が寄り添うように倒れている。
倒れているのは芝生の上。しかし、その芝生は、茶色く変色し、全て枯れている。
木は、冬でもないのに葉を全て落としている。幹を枯らし、根を枯らし、斜めに倒れ掛かっている。
蜂の巣からは、蜜と共に、卵、幼虫、成虫、女王蜂が流れ出る。
池の魚は川へ流れ、川の魚は海へ流れ、海の魚は深海へと落ちていき、水圧で押し潰される。
犬が寝そべっているが、吠える声は無い。
電車に乗っている人は、互いに寄り添う様に寝ている。
宇宙に誕生した太陽系。
そこにある地球この地球という星に生まれた生物。
その生物の頂上に君臨する人間は、発展し過ぎた余り、自分達の発展の結果を全て滅ぼしてしまった。
生物という、宇宙の歴史に刻み込まれた物質は、またこの宇宙の中に生まれるのであろうか。
……今、地球へ一筋の光が……
母親と赤子が寄り添うように倒れている。
倒れているのは芝生の上。しかし、その芝生は、茶色く変色し、全て枯れている。
木は、冬でもないのに葉を全て落としている。幹を枯らし、根を枯らし、斜めに倒れ掛かっている。
蜂の巣からは、蜜と共に、卵、幼虫、成虫、女王蜂が流れ出る。
池の魚は川へ流れ、川の魚は海へ流れ、海の魚は深海へと落ちていき、水圧で押し潰される。
犬が寝そべっているが、吠える声は無い。
電車に乗っている人は、互いに寄り添う様に寝ている。
宇宙に誕生した太陽系。
そこにある地球この地球という星に生まれた生物。
その生物の頂上に君臨する人間は、発展し過ぎた余り、自分達の発展の結果を全て滅ぼしてしまった。
生物という、宇宙の歴史に刻み込まれた物質は、またこの宇宙の中に生まれるのであろうか。
……今、地球へ一筋の光が……
裏で書いてる短編小説の新作です
と言っても、書いておいた物にほんのちょっと手を加えただけで、まだまだ改良の余地がある代物ですが
四月八日までに載せるには丁度良い物だったんで、これだけは仕上げて後で裏に載せます
NEET(仮)は結構な量の下書きを書いてるんですけど迷走しまくってて完成の目処が……
因みに元ネタはALI PROJECTの鎮魂頌という歌
と言っても、書いておいた物にほんのちょっと手を加えただけで、まだまだ改良の余地がある代物ですが
四月八日までに載せるには丁度良い物だったんで、これだけは仕上げて後で裏に載せます
NEET(仮)は結構な量の下書きを書いてるんですけど迷走しまくってて完成の目処が……
因みに元ネタはALI PROJECTの鎮魂頌という歌


HN:
寿限無(以下略)
年齢:
35
性別:
男性
誕生日:
1989/09/26
職業:
学生
趣味:
ゲーム
















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据置:4
携帯:9
ファンタシースターポータブル2
世界はあたしでまわってる
クイズマジックアカデミーDS~二つの時空石~
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